最近は油絵もぼちぼち描くようになったので、ならばということで油絵でモンスターを描いてみることにしました。モンスターを描くにしても色々な表現手段を使ってみると新鮮です。よかったら参考にしてみてください。(2016年8月7日)
今回の作例
ここでは次のようなモンスターイラストの制作過程を紹介します。
油絵のメリット・デメリット
さて、作例の前にまず油絵の紹介をしておきます。はじめに他の技法と比べたときの利点欠点を見てみましょう。
メリット
- 塗り重ねにより重厚感のある絵が描ける。絵の具を「盛り付ける」ことができるので、デジタルでは表現しづらい凸凹感を簡単に出せる。
- やり直しが利くので、初心者でも安心
- 耐久性が高いため、作品が良好な状態で長く残る
- 一気に仕上げるのは難しいが、そのぶん時間をかけてじっくりと作品に向き合える
- 一度道具をそろえれば長年使える
デメリット
- 片付けがめんどくさい
- 乾燥時間が2~3日必要なので、制作に時間がかかる
- キャンバスは既成のものを買うと高い。また、いろいろ道具をそろえようとするとお金がかかる
- オイル類は可燃性や毒性があるため注意が必要。制作時は換気する必要があるので、冬場の制作はきつい。
まずメリットについてですが、油絵は塗り重ねや盛り付けができるので凹凸した質感の表現が得意です(描き方によっては造形しているような気分になる)。もちろん2次元的に描いても塗り重ねていくうちに自然と重厚感が出るのが特徴です。あと、意外にも油絵はやり直しが利くので決して難しくはないです(よく比較されますが、水彩は一発勝負に近いので難しい)。
一方でデメリットは、何といっても「片付けが面倒」の一言に尽きます。油を使うので処理が大変ですし、しかもきちんと後片付けしないと道具がすぐダメになってしまうのでやらないわけにもいきません。目安として皿洗いが苦手な人にはこの点が厳しいかもしれないですね。あとはメリットの裏返しなのですが、制作に時間がかかるのでせっかちな人にはもどかしいかもしれません。
ちなみに油絵というと「お金がかかる」イメージがあると思いますが、必要最低限の安い道具で十分描けますし、いちど道具をそろえてしまえば長く使えます(絵の具も案外持つ)。ただ問題はキャンバスで、これをまともに買っているとお金がかかります(6号[=だいたいA3サイズ]で850円くらい)。なので私は一工夫して「段ボールキャンバス」というのを自作して描いています。これだと見た目はチープになりますけど、格安でコンパクトなので数をこなすには最適です。
必要な道具
画材屋さんに行くとケース入りの初心者用セットが売っていますが、正直ケース代で割高になっているのでバラで買ったほうが断然安いです(※セットで買った人間の意見)。まずは必要最低限の道具をそろえて描いていき、必要になったら他の道具を買い足していく、というスタイルが一番賢いのではないでしょうか。
最低限必要なもの
- 筆(材質:豚毛)
油絵では細かく描くのはコツがいるので、最初は大きめの「12号」が1本あればOK。100均で売ってるやつで十分です。
- パレット
できればしっかりしたものがいいです。私は使ってませんが、使い捨てのペーパーパレットというのもあります(100均で買えます)。
- 油絵具
12色セットで大体3000円前後(私はホルベインのやつを使っていますが、もっと安いのもある)。
- ペインティングオイル
絵の具の描き味を調整するオイルです(ないとまともに描けない)。油絵のオイルには何種類かありますが、それらが程よく混ざっているのがこれ。通販だと少量の物が割高なので画材屋さんで買いましょう。
- キャンバス
前述の段ボールキャンバスが練習に最適です(今回の作例でも使ってます)。
- 筆洗油(ブラシクリーナー)
筆についた絵の具を落とす油で、描く色を切り替えるときや後片付けに必須です。画材屋さんで買ったほうが安いです。
- 新聞紙、ぼろ布など
絵の具やオイルを拭いたりするのに必要です。
あると便利なもの
- ペインティングナイフ
絵の具を盛り付けたり削ったりする道具。これがあると表現の幅が格段に広がりますが、初心者には使い方が分かりづらいので、ある程度慣れてから買うのがいいかもしれません。
- イーゼル
キャンバスを立てかけておくアレです。アルミ製の軽いやつが3000円くらいで買えます。
油絵の基本
いちおう基礎的な部分について簡単に書いておきますが、私は独学初心者なのであまり自信はないです。書籍が色々でていますのでそちらを参考にしてもらったほうが良いと思います。
1.絵の具の扱い方
道具関係は説明が大変なので、絵の具の使い方のポイントだけ(あとは本や他のサイトにおまかせ)。
油絵の具の基本
- 絵の具の乾燥について
油絵は塗り重ねが基本ですが、塗った絵の具がひとまず乾燥するには大体3日くらいかかります。乾いてない状態で描くとキャンバス上で色が混ざってしまい、初心者の腕ではなかなか思った色にならないので、乾燥するまで気長に待ちましょう。
- 絵の具の透明度について
油絵の具には色ごとに「透明度」があり、塗り重ねたときに下の色の見えやすさが違ってきます。大抵の色は「半透明」ですが、白や黒は「不透明」です。これを頭に入れておくとキャンバス上でイメージ通りの色が出せるようになります。
- 絵の具の明度(明るさ)と彩度(鮮やかさ)について
チューブから出したばかりの、他と混ざっていない色は彩度が高い状態です(白と黒は初めから彩度ゼロ。明度は絵の具による)。彩度は他の色と混ぜると下がります。明度は他の明るい色と混ぜると上がります。
- 混色しすぎはダメ?→場合による
混色すると彩度が落ちてくすんだ色になるので、鮮やかな色づかいをしたい場合は2色まで…というのが一般的ですね。私はボンヤリした色合いが好きなので気にせず混ぜまくってますが。
- 黒の使い方
一般的には「黒は使わないほうがいい」と言われています。これはデジタルのほうでも触れましたが、黒で彩度を落とした色を使うと不自然に重い感じの絵になるからです。
…が、それはあくまでも鮮やかな絵にしたい場合に問題になることで、やはりケースバイケースだと思います。私は輪郭を強調するのが好きなので、ごっつい絵とかダークな絵にする場合はガンガン黒を使ってます。
…この辺は私もまだまだ勉強中で確信はないですが、まあこういうやり方もあるということで。
2.個人的な描き方の手順
油絵は表現の幅が広いので色々な描き方があると思いますが、私の場合は塗りをデジタルで覚えたので、デジタルの「厚塗り」に近い手順を採用しています。ただし、油絵には当然レイヤーはないですし、絵の具の透明度も固定なので、そういった部分を考えながら描く必要があります。
- 鉛筆で下書きを描く。
- 下書きから線画を作る(※輪郭が必要な場合)。
- モンスターの体の明暗を決める。
- 背景の下地を作る。
- モンスターの下地を塗る。
はみ出した場合を考えると背景を直すほうが楽なので、こちらを後にしています。
- モンスターと背景を気が済むまで塗る(キリのいいところで一旦乾燥させる)。
なお色は「暗→明」の順に塗ります。なぜかというと、暗い色は白を使わない限り塗り重ねづらいからです。
作例の下書き~完成までの流れ
文字ばかりでもわかりづらいので、いつも通り制作過程を載せておきます。
1日目:
まず、あらかじめデザインしておいたモンスターを鉛筆で下書きします。今回はムキムキなカンガルーっぽいモンスターです。何となくチュパカブラ的なポジションをイメージしてます。
暗い色の絵の具を使って線画と暗い部分を描きました。今回は輪郭を強調したかったのでこの手順を入れていますが、輪郭がいらない場合はこのステップは飛ばしてOKです。
背景の下地を作ります。今回は主役のモンスターを引き立たせるために色だけの背景にしました。また、この時点でモンスターの配色が「緑か青に近い灰色」になる予定だったので、今まで持て余していた黄色を活用して色的にもモンスターが目立つようにしました。(ここで3日乾燥)
2日目:
モンスターの体色の下地を塗り、背景も塗りました(※輪郭部分との隙間がなくなるようにキッチリ塗る)。背景のほうはこのくらいで十分でしょう。
3日目
モンスターの明るい部分を中心に更に塗り重ね、際立って明るい部分(目、肩、背ビレ等)を塗りました。これで完成です。
反省点など
いつもどおり脳内反省会を開催します。
良かった点
- 描き始めの時点でモンスターのデザインが決まっていたので、制作途中でその点に悩むことなく油絵の制作そのものを楽しめた。フィギュアのときと同じく、時間がかかる表現方法の場合は最初に方向性をしっかりと決めておくことの大切さが身にしみた。
- どちらかというと背景もしっかり描きたくなってしまう性格だが、今回のように色だけの背景というのも悪くないなと改めて思った。モンスター主体の絵を手早く書きたい場合はこういうのも積極的に採用したいと感じた。
改善すべき点
- 今回、12号の筆1本だけで描いたので細部の詰めが甘くなってしまった。今後はもう少し細い筆を併用して描いてみたいと思う。また、ペインティングナイフで凸凹感のある表現にもチャレンジしてみたい。
- モンスターの配色をもう少し練るべきだった(ちょっと単調すぎる)。
- 向かって奥の背ビレや胸筋の形に違和感がある。
というわけで、以上が油絵でモンスターを描いてみるやり方でした。油絵の制作はなかなか大変ですが、とても奥が深い表現方法なので苦労に見合うだけの面白さがあると思います。よかったらぜひぜひチャレンジしてみてください。